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消費税に関する国内の言論2

消費税は社会保障が目的?コロナ禍の減税に反対する提言に指摘も

 

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リーマンショック級以上」なのに…

先週の本コラムでは、補正予算の財源が「血税」というのは間違いであると指摘した。これを、あるマスコミの人に言ったら、「財源が『血税』だからバラマキに怒るという、いつものマスコミのパターンが否定されて困る」ということだった。

「それはウソをついて煽っているということではないか」と筆者が言うと、「マスコミの読者・視聴者の認識はその程度なので、仕方がない」と開き直っていた。なお、「血税」はもともと「徴兵」を意味することを、マスコミに勤める人たちはご存じだろうか。もっといろいろと勉強したほうがいい。

6月8日に、東京財団政策研究所から「緊急共同論考 社会保障を危うくさせる消費税減税に反対」が発表された。

この論考の執筆メンバーは、財務省の別働隊、いわゆる「ポチ」そのものである。先週批判した週刊誌に出ている学者もいる。

その内容は、冒頭の「消費税は社会保障の財源であり、仮に減税となれば社会保障に悪影響が及ぶ。高齢化が進むわが国において将来に禍根を残しかねない」に要約できる。

筆者はかねてより消費増税をすべきでないと述べてきたが、政府は「リーマンショック級の事態が起きなければ」という条件で消費増税に踏み切った。いまは実際に、リーマンショック級以上の経済ショックが起こっているのであるから、素直に考えれば、政府は消費減税をすべきである。

緊縮のドイツでさえ減税に踏み切った

そうした中で、ドイツで興味深いことが起こった。財務省はこれまで「緊縮財政のドイツを見習うべき」といってきたが、ドイツでさえ、今年7月から12月までの期間限定で、付加価値税税率を19%から16%へ引き下げる、つまり消費減税をするという。

このドイツの消費減税は、コロナショックで落ち込んだ消費喚起のためには正しい政策だ。しかし、冒頭に挙げたような財務省シンパは、そうした正しい政策を否定しようと必死である。その3つの理由が滑稽だ。

上記の論考では、「第一にわが国消費税は、社会保障目的税で、全額使途は社会保障に充てられる」としている。はじめから、間違った前提を減税否定の理由としているのが面白い。

 

日本の財政学者のほとんどは、消費税を社会保障目的税と考えることを疑っていない。財政学者が財務省のポチである証拠だ。

マスコミも多くは、消費税は社会保障目的税である、と何の疑問もなく書く。これも、マスコミが財務省のポチたる所以だ。

本コラムの読者であれば、筆者はおそらく日本の財政学者の中ではただ一人、「消費税を社会保障目的税とするのは、税理論と社会保障論からみて誤りだ」と主張していることをご存知だろう。

その理由は、社会保障は保険数理で運営されているが、そのためのベストな財源は社会保険料だからだ。そのほかの財源は、保険数理の運営を歪めてしまう。そもそも社会保険料は究極の社会保障目的税である。これが社会保障論からの答えだ。

財務省もかつて「正論」を言っていた

租税論からは、消費税は徴税コストが少なく、優れた応益税である。そうした応益税は、景気に左右されない基礎的な行政を担う地方公共団体に充てるのが正しい。これが消費税を社会保障目的税にしていはいけない理由だ。

財務省のポチであれば、筆者のこうした「正論」が、2000年まで当時の大蔵省の正式見解であったことを知っているはずだ。実際、「消費税を社会保障目的税としている国はない」という公式な記述は、当時の税調答申などでみられる。

その正統な見解を捨てたのは、財務省が当時の自由党小沢一郎氏と組み、社会保障を「人質」として消費税増税をしていこうという、不純な動機を持つようになったからだ。

筆者は、こうした話をこれまで国会などで繰り返ししてきた。例えば、国会会議録検索システムで、「高橋洋一 社会保障目的税」と検索すれば、「第180回国会 衆議院 社会保障と税の一体改革に関する特別委員会公聴会 第2号 平成24年6月13日」、「第189回国会 参議院 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会 第3号 平成27年4月15日」、「第192回国会 衆議院 厚生労働委員会 第9号 平成28年11月25日」がヒットするはずだ。そこで詳細に述べているし、各種の著作でも記述している。もし内容が間違いなら財務省は抗議してくるはずだが、今までそうしたことはない。

ちなみに、国会などに消費税の議論で呼ばれた時には、消費税を社会保障目的税としている国は日本以外にないことの他にも、日本の財政破綻確率は、日本政府の子会社を含めた連結のバランスシートでみれば無視できるほどあり、ゆえに消費増税はすべきでないこと、また社会保障で問題なのは保険料がきちんと徴収されていないことであるから、歳入庁を設置する必要があることなどを申し上げてきた。

むしろ予備費を増やすべき

さて、財務省シンパがドイツの消費減税を否定するもうひとつの理由であるが、「第二に、効果の即効性の問題である」(前述の論考より)としている。

減税のためには国会審議が必要だというが、要するに、一度減税するともう一度増税するのに時間がかかるといいたいらしい。長々と書いているが、まるで出来の悪い学生のレポートみたいだ。それなら、ドイツのように時限的にやればいい。減税は、増税より周知期間も短くできるし、例えば1年と期限を切れば、この財務省シンパが一生懸命書いたレポートはあっさり論破できる。

 

最近、野党は2次補正予算に盛り込まれた10兆円の予備費について、額が大きすぎる、国会を通さずに勝手に使われてしまうのではないかなどと批判していた。与野党の国対の馴れ合いで、5兆円の使い道を示すことで決着したが、茶番もほどほどにしてほしい。

筆者はテレビなどで、あと3兆円国債を追加発行し予算を13兆円として、消費税を1年間限定で5%に減税する(消費税の減収分は1%で2.6兆円)とか、社会保険料を減免にするとかの、具体的な政策項目を国会論戦すべきと主張していた。この程度の議論ができない国会はどうしようもない。なお維新の片山虎之助氏は、残りの5兆円の予備費について、消費税2%分なので1年間2%の消費減税をせよと主張していたが、これはまともな国会議論である。他の野党も見習うべきだ。

そもそも、予備費とは財源を用意して使い道を決めていないだけのものなのであって、具体的な使い道を議論するのが国会の役目である。

国民を支援したくないのか?

次に、前述の論考では、減税すべきでない第三の理由として「新型コロナの影響は国民全体で一律ではない」と述べている。これは、先の第二の理由である「即効性」と関係している。

新型コロナ対策に即効性を持たせるために、10万円の一律給付があった。即効性なら、筆者は一律10万円を政府振出小切手で、年金定期便の住所に政府から送付するのが最短の方法だとしていた。これは、実際米国などで行われた政策なので、日本でもできないことでない。しかし現実には地方事務とされ、まず地方自治体から申請書を住民台帳ベースで送り、それを返送させるという手順とした。これでは給付が遅れるのが目に見えている。

その点、消費減税、つまりすべての品目で軽減税率を適用するのであれば、システム対応も容易であり、実施も早くできる。しかも、減税のその日から消費者が恩恵を受けることができ、一律10万円給付よりも即効性が高いだろう。

 

冒頭の財務省シンパは何かと文句をつけて、国民にスピード感のある支援をしたくないのだろう。

この提言は、結論もとんでもないお門違いだ。「ドイツはなぜ消費税減税に踏み切れたのか? それは、2014年以降6年連続(ドイツ全体では2012年以降8年連続で)出し続けた財政黒字の国民に還元する一策と位置付けられたからである」というが、それ自体は正しくとも、日本とドイツの事情は違うので、日本で消費減税をしてはいけない理由にならない。

この提言では、いつも財務省が言うように、減税すると国債残高が増えるという。本コラムの読者であれば、国債残高が重要なのではなく、日銀を含めた政府関係機関の資産を引いたネットで見なければいけないことをご存じだろう。

財政健全化は命より大事なのか

先週の本コラムでは、冒頭に述べたように、今回の補正予算の財源は「血税」ではないと書いた。補正予算国債は日銀によって買い取られる。日銀の保有する国債について、政府に利払いや償還の負担はないからだ。それと同じように、国債残高ではなく、日銀保有分を差し引いたネット国債残高でみるべきだ。

要するに、中央銀行を持たないドイツでは、減税するために財政黒字が必要かもしれないが、中央銀行を持つ日本では、通貨発行益を利用して一時的な減税が可能になるわけだ。

財務省シンパの提言は、こうした基本的な理解ができていない。学生のレポートとしても落第点である。

 

大恐慌級の経済ショックに対して、金融政策と財政政策を両方ともフル稼働させ、目一杯の有効需要を作るのは、大恐慌からの教訓だ。それは、適切な有効需要を作れないと、大量の失業を生み出し、それが大量の自殺者をも生み出すからだ。

仮にコロナショックでGDPの3~4割が失われ、何ら有効需要創出がされないと、失業率は4%程度、失業者は250万人程度、自殺者は1万人程度、それぞれ増加する。

そうしたときに、社会保障を口実として消費減税に反対するのは、人の死よりも財政健全化を選ぶのかと疑ってしまうほど、酷い話である。財務省は、東日本大震災後の復興増税のようなことを目論んでいるとも言われるが、財務省シンパの提言はそれを想起させる。